もう一つの大きな潮流

観光産業を根底から大きく変えてしまいつつあるもう一つの変化がインターネット、ソーシャルメディアの普及であることは言うまでもありません。これはコンテンツ・プロバイダーであるアクティビティ提供者にとってはチャンスです。

その昔、旅行をするときはまず旅行代理店に行って飛行機や宿を予約することから始まり、現地でのアクティビティを考える、と行った流れが主流でした。我々消費者にとって現地でどう行ったことができるのかは紙媒体で得られる情報、旅行代理店が提供する情報が大部分でした。ですから消費者は旅行代理店に行ってパッケージツアーを選んだわけです。


確かに代理店が提供する情報は安心感がありました。代理店が提供しているのはらおそらく「ハズレ」はないでしょうし、他にも多くの人がパッケージツアーで参加しているのであれば、それほど間違いはないであろうと思います。しかしながら代理店が提供できるのは現地にある数多くのアクティビティの中の一部に過ぎず、選択肢は実際よりも非常に限られているのです。またアクティビティのプロバイダーとしても一度代理店のチョイスに入ってしまえば、労せずして集客してくれるので、サービス改善のモチベーションは上がりません。


これに対して現在ではインターネット、ソーシャルメディアなどを通して、消費者が旅行代理店と同等の情報を無料で入手することができます。代理店に頼らずとも、現地にはどんなアクティビティがあるのか、どんな評判なのかがわかります。そしてそこへいくための手段(交通、宿泊)も自分で選択できます。


これによって旅行代理店の存在意義は大きく変わりました。消費者は旅行代理店に行かなくても現地でどのようなアクティビティがあるか、どのような手段んでそこに行けるのか、そしてそれらの価格がわかるので、彼らに頼らず自分の旅行を作ることができます。旅行代理店に残された付加価値は、規模が大きいことからくるバーゲニングパワー(安価で仕入れることのできる力)、そして消費者に代わってパッケージを組み立てて販売する、ワンストップ・ショップであるということだけになります。それまで権力構造の頂点にあった旅行代理店にとっては死活問題です。


アクティビティの提供者側にもこうした潮流は非常に大きな変化をもたらしています。今では日本のほぼ最西端にある石垣島のダイビングセンターですら、地球の裏側にいる消費者に対して情報を発信することができます。ホームページにはサービスや価格その他必要情報を掲載し、メール等で何千キロも離れたところにいる消費者も、あたかも隣にいる人と同等にコミュニケーションをとることができます。そしてSNSの投稿を介し、消費者はあたかもすでにその場にいるかのようか擬似経験ができます。もはやそこに旅行代理店の介在する余地はありません。アクティビティ提供者は座して待つ、旅行代理店に販売してもらう時代から、自分で売り込む時代になったのです。


またインターネット、ソーシャルメディアの普及は旅行産業における権力構造を根本的に破壊したのと同時に、消費者に対して「口コミ」という大きな力を与えました。アクティビティ提供者側に強力な競争原理が導入されたわけです。これによって最終的には消費者に対してより高い顧客満足度を提供したコンテンツ提供者が勝つ事になります。言い方を変えれば、より高い顧客満足度を提供すれば、それが消費者に認知されやすくなった、とも言えます。


これを危機と捉えるか、機会と捉えるかは経営者次第です。